共有名義の不動産の所有者が認知症になった場合どうする?売却や建て替えは可能なのか?
今回ご紹介させていただくのは、認知能力が低下してきた親と不動産を共有名義で所有するYさんの事例です。
自宅から離れた駅前の一等地に母親とその息子兄弟で共有名義の更地を所有しており、親の認知能力の低下が始まったため、認知症が深刻になると不動産の売却や建築ができなくなるのではないかと不安を抱えられていたご子息様からご相談をいただきました。
- 母親:認知能力の低下が始まる。
- ご子息(兄):すぐにでも売却したいが安価な売却はしたくない。
- ご子息(弟):相談者。土地を残し、土地活用したい。
駅前の好立地に更地の状態である土地は固定資産税の負担だけでも維持が大変であり、早急に現状を変える必要がありました。
一般的に、名義人の認知症が進むと不動産だけでなく財産の流動性がなくなり、土地活用や相続対策は手が付けられなくなります。早め早めの対策が必要です。
この事例を簡単にまとめると、、
対象不動産 | 共有名義の更地 |
相談から対策完了までの期間 | 約2年 |
問題点 | ・共有名義で名義人同士で意見が違う ・名義人のうち1名の認知能力が低下 ・更地で収益を生まず、固定資産税の負担が大きい |
実行案とその効果 | ・民事信託により母親の持分権利を弟に信託 ・兄持分権利を弟が買取 ・弟の判断で当該土地に収益物件を建築 ⇒兄は土地を手放せ、弟は土地を残して今後母の介護にかかるであろう資金を捻出できた |
共有名義人の認知能力の低下が始まったご相談時の悩み
- 3名の共有名義で、名義人同士で意見が違う
- 名義人のうち1名の認知能力が低下
- 更地で収益を生まず、固定資産税の負担が大きい
ただでさえ不動産を動かす場合にネックになる「共有名義」であるうえ、名義人のうち1名の認知能力の低下が始まり、完全に認知能力がないと判断されてしまうとその不動産は動かすことが難しくなってしまいます。
共有名義だけなら話し合いで解決できる可能性もなくはないですが、認知症が進行してしまった場合には土地活用や相続対策ができなくなるので早め早めに行動を起こしましょう。
不動産を共有名義で保有する場合のデメリット
- 売却や建築などの変更行為の際には名義人全員の同意が必要
- 共有状態で相続が発生すると、権利関係がさらに複雑になる
- 共有者ごとの権利は流動性・換金性が低い
共有名義は、不動産の所有権などの権利を複数人が支配・利用していることを表します。
そのため、売買契約の締結及び解除、宅地造成、借地権設定、担保権設定、建物の取り壊し、改造、建築及び譲渡などの「変更行為」を行う際には共有者全員の同意が必要になり、共有名義人全員の意見が一致しない場合には変更行為を行うことができず不動産を動かすことができなくなってしまいます。
共有名義の状態になるほとんどが、相続時に遺産分割協議がまとまらずにとりあえず法定相続分の割合ずつの持分で遺産分割を行うケースです。話し合いはまとまりやすいですが、将来のことを考えるとこれは大きなデメリットになります。
また、このようなデメリットがあるため共有者ごとの持分の権利は流動性や換金性が低く、第三者に売却するということがほぼ考えられません。解決策としては、第三者に全員分の権利を買い取ってもらうか、名義人のうちの1人に全部の権利を買い取ってもらうことが現実的です。
不動産オーナーが認知症になったら
不動産の所有者が認知症などで判断能力を失った場合、原則として家族であってもその不動産に対する法律行為を行うことはできません。これは複数の共有名義人のうちの1人だけが判断能力を失ったとしても同様です。
その土地への建築や土地の売却をすることもできず、さらに所有不動産が賃貸物件で合った場合は賃貸借契約を結ぶことすらできません。
こうなってしまうと固定資産税や、ローンの支払いが残っている場合はローンを払い続けるだけの不動産となってしまいます。こうならないためにも特にオーナーが高齢の場合は事前に対策を取っておきましょう。
とは言え、共有名義人全員が売却で一致していたり、共有名義人のうち1人が買い取ることが決定する場合には不動産を共有するという選択にならないですよね。
意見の不一致や、土地を所有したい人が複数いる場合には共有者間で揉めることは必至です。
弊社では共有名義のトラブルも複数解決してきていますので、認知症の進行などで不動産を動かせなくなる前に、お気軽にご相談ください。
共有名義人の認知能力の低下が始まる前に検討すべきこと
- 共有名義人の意思確認
- 民事信託(家族信託)の活用の検討
まずは共有名義人の間で不動産をどう動かしたいのか、意見交換を行いましょう。
全員が売却の意思を持っているのか、誰か1人に権利を委譲し共有の状態を解消する方向であれば解決は近づくかもしれません。
そして、今回のケースでは名義人のうちの1人の認知能力が低下してきているため、民事信託を利用することを検討するのが良いです。
民事信託(家族信託)とは?不動産オーナーが認知症になる前に
不動産を所有する高齢の親の認知症対策として、最近では民事信託を活用するケースが増えてきています。
民事信託とは、家族間で信託の仕組みを活用して不動産などの財産を管理する方法で、成年後見制度よりも柔軟な取り決めができることが特徴です。
民事信託には「委託者」「受託者」「受益者」の3種類の当事者が出てきますが、上図の例では髭のおじいさんとロングヘアの女性が委託者で、若い男性が受託者、そして3人全員が受益者です。
- 委託者:財産を預ける人
- 受託者:財産を預かって管理・運用する人
- 受益者:財産から得られる利益を享受する人
今回のケースのように、信託する財産が不動産である場合は法務局にて信託登記を行い、受託者は委託者に代わって不動産の管理・運用・処分を自由に独断で行うことができます。
認知症の親の財産を管理するために、親が委託者となり、子が受託者となる民事信託を行うケースが増えてきています。
実際に行った解決策
- 民事信託(家族信託)により母親の持分権利を弟に信託
- 兄持分権利を弟が買取
- 弟の判断で当該土地に収益物件を建築
民事信託により、認知能力の低下が懸念される母親の持分の権限を弟に信託し、兄の持分権利を弟が買い取ることで、当該不動産にかかる判断を弟1人でできるようにしました。
そして、駅前の好立地という当該不動産の特性を活かして容積率をフル活用した収益物件の建築計画を立て、事業資金内に兄の権利持分の買取資金を組み込むことで自己資金を極力減らして土地活用を開始することができました。
融資付けに関しては、土地の担保余力や名義人の状況により難航しましたが、弊社で複数のメーカーに相談を行い、費用面・収益面で最大限効率のよい計画を立て、弟様の住宅ローンの借り換えなども含めて融資の取り付けに成功しました。
解決策の効果
- 母親は手遅れになる前に相続対策ができた
- 兄は意向通り持分権利を売却することができた
- 弟は意向通り土地を残し活用でき、母親の介護費用の捻出もできた
認知症が進み判断能力がなくなってから動き出した場合、この土地は今でも更地の共有名義のままとなっていたことでしょう。
母親は判断能力のあるうちに財産を息子へ信託することができ、兄は意向通り持分権利を売却することができ、弟は意向通り土地を残して活用することができました。
これから母親の認知症が進んでしまった場合に必要になるであろう介護費用も物件の収益から得ることができるようになり、一歩遅ければあわや大惨事といった可能性もあったケースでしたが、ご相談者様が早めに動き出してくれたおかげで関係者全員が理想とする形で対策を行うことができました。
最初のご相談から2年という歳月を経て、ご相談者様ご家族の新進の負担に終止符を打つことができました。
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