借地権のついた築古テナントビルは次の世代に相続するべきなのか?
今回ご紹介させていただくのは、借地権付きの築古テナントビルを所有しているMさんの事例です。
相続財産の大半を占めるのが一等地に建つ借地権付きの築古のテナントビルで、継続して維持を行うにも大規模修繕等で多額の費用を要し、建て替えを行うにも底地権者への建て替え承諾料や更新料が発生することで、建物の整備をできずにいました。
これから相続が発生することを考えると、次の世代に建て替え等の負担をかけるくらいなら売却してしまいたいと考えていましたが、借地権かつオールテナントの築古物件であるため、買い手も限られるという状況でした。
この事例を簡単にまとめると、、
相続財産 | 借地権付き築古テナントビル 自宅不動産 現金その他金融資産 |
相談から対策完了までの期間 | 約1年半 |
問題点 | ・借地権付きで築古の高価値物件 ・相続税を支払うだけの現預金が手元にない ・相続人が遠方に居住 ・底地権者との契約書が存在しない |
実行案とその効果 | 底地権者との契約書の締結 当該不動産の売却による納税資金の確保 その他施策による相続税負担額の減額 |
借地権付き古テナントビル相続のご相談時の悩み
- 築年数50年だが、修繕するにも建て替えるにも膨大なお金が必要
- 相続財産の大半を当該物件が占めており、相続税を支払う現金が捻出できない
- 借地権かつオールテナントの築古物件のため、売却しようにも買い手が限られる
借地権付きの築古テナントビルということで、今後は大規模修繕もしくは建て替えの必要性がある物件であり、いずれにしても膨大な費用がかかることが分かっていました。
さらに、当該ビルは一等地に立地しており非常に相続税評価額の高い不動産で、オーナー様の所有財産の大半を占めるという状況でした。そのため、相続が発生した場合の相続税はかなり大きく、手元の資金では相続税を納税できないことが懸念されていました。
そこでオーナー様は売却も視野に入れていましたが、借地かつオールテナントの築古物件をどんな人が買ってくれるのか検討もつかず、弊社にご相談をいただきました。
借地権付き築古テナントビルの相続時に検討すべきこと
- 相続税の試算
- 現状維持、修繕、建て替え、売却それぞれの収支比較
- 推定相続人様の意向の確認
- 底地権者やテナントとの権利関係の整理
相続税シミュレーションと物件の収支把握
方針を検討するためにもまずは相続税額や考えられる方策についてシミュレーションを行い、収支予測を立てます。
この収支予測を立てずして相続人を含めた円満な話し合いは難しく、方針を決定するための重要な指標となります。
相続税は、相続人へ財産が相続された場合に、その財産に対して課される税金です。
相続財産は現金だけではなく、不動産や有価証券、美術品などの全ての財産が含まれます。
課税遺産総額×法定相続分×税率-控除額
=各法定相続人の相続税額
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
今回のケースでは、築古物件ということもあり、現状維持だけではなく、直近で発生する可能性が高い修繕や建て替え、また売却も視野に入れた幅広いシミュレーションを行う必要がありました。
提携している税理士事務所と連携をはかり、税務面でも抜かりの無い、今後とるべきアクションを検討するためのベースとなる収支計算書を作成しました。
推定相続人様の意向の確認
特に不動産の相続では、収支面以外にも物件周辺とのお付き合いや、物件管理の手間、関連する権利者との関係性も関わってきます。
借地権付きのテナントビルということで、底地権者様やテナントの入居者様との関係性も一緒に相続することとなるうえ、直近で修繕や建て替えが発生する可能性もあり、相続人様の意向を確認することはなによりも重要な事項でした。
今回のケースでは、推定相続人様が物件から遠方にお住まいとのこともあり、相続後の物件の管理について不安を抱えておられ、また相続税を納める際に現金が必要になることから売却を希望されていました。
物権に関わる権利関係の把握・整理
借地権付きテナントビルの場合、底地権者様やテナントの入居者様との契約関係も相続する対象となります。
テナント入居者様との賃貸借契約の内容や、底地権者様との契約内容について理解しておかなければ後々トラブルになる可能性もあるため、相続が発生する前に整理しておくことでいざ相続が発生した際に慌てることがなくなります。
相続が発生してから動き出すとなると、相続申告や権利関係の整理、売却や建て替えの見積もりなどやらなければならないことが多すぎて、ベストな選択をする余裕がなくなってしまう可能性があります。これが私たちが「生前対策」を重要視している理由です。
相続が発生してから慌ててしまわないように、将来を見据えて早め早めの情報収集を心がけましょう。Rezardへの相談は無料ですのでお気軽にご相談ください。
実際に行った解決策
- 相続税、修繕・建て替え、売却の際のシミュレーションの作成
- 底地権者様やテナント入居者様との契約関係の整理
- 当該物件の購入希望者の選定
- その他不動産以外の納税対策のご提案
底地権者との権利関係の整理
物件の権利関係を調査していて最初にぶつかった壁は、そもそも底地権者と借地権者の間で当該不動産に関する契約書や取り決め書が一切交わされていなかったことです。
このままでは相続もしくは売却をするにも不都合がありました。
そこで、双方合意のもと弁護士事務所へ相談の上、契約書の作成を行いました。
相談者様に不利益が生じないよう、何度も底地権者を含めてお打ち合わせを繰り返し、約半年の交渉を経て双方が納得のいく形で契約書を取り交わしました。
10億円規模の物件の購入者の選定
当該不動産は一等地に立地するテナントビルであり、資産価値は高く、推定売却価格は10億円をくだらない物件でした。
また借地権付きで築年数も経っている物件であるため買い手も限られていましたが、弊社のネットワークを最大限に活用して買い手を選定し、ご提案を行ったことで、媒介契約から4カ月後というスピードで決済へ至りました。
その他不動産以外の納税対策のご提案
相続財産は当該不動産以外にも、自宅用の不動産を含めて総合的な納税対策のご提案を行いました。
その他、生命保険を活用した納税対策を行うなどして、当初のご相談から約1年半の歳月を経て大枠の生前対策を完了しました。
解決策の効果
- 底地権者との契約書の締結
- 当該不動産の売却による納税資金の確保
- その他施策による相続税負担額の減額
相続税や売却時のシミュレーションをベースにオーナー様や相続人様のご意向を確認し、売却への舵を切ることができました。
底地権者様との契約書が存在しなかったことで、一から契約書を締結する必要がありましたが、オーナー様に不利益にならない契約が締結できました。また、実は底地権者様も前々から契約書を結んでいないことを同様に悩んでおられたため、これを機に双方に遺恨を残すことなく正式な取り決めができました。
一等地にある借地権付きの築古ビルであり買い手の限られる物件ではありましたが、無事買い手が見つかり、媒介契約から4カ月というスピードで決済まで進めたことで、十分な納税資金を準備しておくことができました。
その他にも、自宅不動産の次世代への贈与やお孫さん世代への教育資金の贈与などの非課税枠の活用による相続税の圧縮のご提案をし、当初ご相談をいただいてから約1年半の歳月を経て大枠の生前対策を完了しました。
オーナー様が誰にも相談できずにおひとりで抱えて悩まれていた、少し特殊な物件に対する悩みの解決と、相続人様の満足のいく形での対策ができました。
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